マンション 生活音 判例

www.kikou.gr.jp/files/mdnews95/mdn95_2.htmlマンショントラブル最前線(28)
マンション内の騒音につき差し止めを認めた例
 今回、階上階下の騒音トラブルケースで、階下住民からの損害賠償並びに騒音発生行為の差し止めを認めた判例があったので、それを紹介するとともに騒音問題に関する他の判例をも見ながら、考察してみたい。(東京地裁平成24年・3・15判決)
 事案はあるマンションの104号室の住民が204号室の住民を、その子供が上階で走りまわったり、椅子等から跳び降りたりする騒音により、精神的損害を受けているので、その騒音を測定するために要した費用64万円、104号室の夫の精神的慰謝料として30万円、妻が通院を余儀なくされたとして、その慰謝料及び薬代・治療費として32万円を支払い、かつ、204号室から午後9時から午前7時までは40dBを超えて、午前7時から午後9時までは53dBを超えて、騒音を104号室に到達させてはならないとの判決を求めた。204号室の住民は全面的に争い、子供は幼稚園に通園していたりして日中は家にいないから、そもそもそのような騒音をたてることなどあり得ない、また、廊下と和室以外は絨毯を敷き詰めているなどと主張した。なお、204号室の床はLL-45規格の9ミリの床材によるフローリング施工であった。
 104号室の住民は調査会社に依頼して、平成20年7月3日から30日までの間、リビングルームの中央で高さ1.2mの位置を測定点として騒音計マイクロホンを設置し、階上からの音を騒音計と、これに接続したレベルレコーダーを使って騒音を測定した。その結果、46dB以上の騒音が測定され、その周波数は125Hzが最も多かった。
 結果的に裁判所はこの調査会社の測定結果を信用し、上階から104号室に500Hz以下の、子供の走りまわり、跳び下りなどの重量衝撃音があり、そのレベルは午前7時から午後9時までで53dBを超え、午後9時から午前7時で40dBを超えていることを認めた。そして、LL-45のフローリングの遮音性能からは、通常の走りまわりや飛び跳ね等は聞こえるが意識することはあまりないという程度にまで遮音できるはずであり、204号室の騒音はこれを超えるものであって、通常の子供が走り回り、跳び下りる程度を超えているとみられるから、204号室の住民は子供に部屋の中で走り回ったり、飛び降りたりして、そのような騒音を出さないよう配慮する義務があるにもかかわらず、その義務に違反したとして104号室の住民の請求をすべて認める判決をした。

 本件で採用されている騒音の基準値は夜間が40dB以下、昼間が53dB以下という基準である。環境基本法第16条1項の規定に基づく告示では、AA地域では昼間50dB以下、夜間40dB以下となり、A及びB地域では昼間55dB以下、夜間45dB以下という基準であるが、AA地域は療養施設など特に静穏を要する地域であり、A地域は専ら住居の用に供される地域、B地域は主として住居の用に供される地域となっている。本件は昼間でAAとA,B地域の間の数値、夜間でAA地域の基準の数値を採用したが、マンションの立地(東京都文京区)から、AA地域の数値を採用した可能性があり、同じマンションでも例えば繁華街に立地する場合は、告示のC地域(相当数の住居と併せて商業、工業等の用に供される)の数値である昼間60dB以下、夜間50dB以下の基準が適用されたかもしれない。

 何れにしろ、単にやかましい、うるさいというだけでなく、訴訟を提起するためには客観的な証拠として、騒音のレベルの測定が必要である。本件でも専門家に機器を設置してもらって、約1ヵ月間測定してもらい、その費用として64万円を要している。費用も労力も掛かるのが、この種の裁判の難点である。また、当事者だけでなく、管理組合や隣人が巻き込まれることもあり、沢山の関係者が迷惑することもある。騒音を発したという証拠が不十分であるとして、下階の住民Aが上階の住民Bから名誉棄損で訴えられ、損害賠償が認められた例がある。(東京地裁平9.4.17判決)
 事案はAが騒音が聞こえるが、その原因は上階のBではないかと考えて、B宅を訪ねたり、管理組合の総会で騒音を問題にしたりし、管理組合も騒音を出さないように注意する文書を全戸配布するなどした。しかし、Aは騒音がなお発生しているとして、総会で善処方を求める発言をし、理事会でも騒音発生源として具体的にBの名前を出した。一方、Bはこのような経過から、管理組合に「騒音問題に対する当方のこれまでの経過と提案」と題する文書を提出するなどし、自らが騒音の原因者でないことを述べるとともに早期に解決するため、音の確認実験をすることや、管理組合の役員が立ち会って騒音の確認をすることを提案し、これを受けて、役員はAに対し、騒音が発生すれば時間を問わず直ちに連絡してほしい、連絡があればA宅に行って騒音を検分し、それに基づきすることを約束したが、結局Aから管理組合役員に連絡はなかった。そこで、管理組合はAに対し、AとBの騒音問題には関与しないと文書で通告した。Aが管理組合の総会で騒音問題について発言し、かつ、その原因者がBであることが分かる方法で発言したことは、Bが管理組合のルールに従わず、他の居住者の迷惑となる行為をする自己中心的かつ規範意識のない人物であるかのような印象を与え、Bの社会的評価を低下させ、その名誉を棄損するものであるとして、500万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求めた。Aはこれに対し、Bは騒音を出しているから、出さないように求めるとともに500万円の損害賠償を求める反訴を提起した。
 裁判の焦点はBが騒音を出していたかどうかに掛かっていた。受忍限度を超える騒音を出していれば、BはAに対し、不法行為により損害賠償する義務はあるし、かつ、Bに対する名誉棄損も真実の証明があるとして、責任は阻却される。ところが、裁判所はAが自ら騒音を録音したというテープを提出したが、第三者が録音したものでなく、そもそも何を録音しているか分からないとした上で、Aが管理組合の役員が関与して客観的に調査しようとしたことに協力しなかったとして、Aが主張するような騒音が発生していたとは認められないと判断して、Aの請求を棄却し、Bの請求のうち、50万円を名誉棄損による損害として、Aに対し支払うよう命じた。
 要するに受忍限度を超える騒音があるとの客観的な資料がなければ、裁判では勝てないということである。