「NIKKEI安全づくりプロジェクト」シンポジウム 安心社会のための企業と生活者意識 

「NIKKEI安全づくりプロジェクト」シンポジウム 安心社会のための企業と生活者意識 

2010年12月17日(金)13:30~ 日経ホール

基調講演 唐木英明 日本学術会議副会長・東京大学名誉教授
自己紹介と宣伝。娘さんが、電波少年のケイコ先生で今は浪速の浪曲師春野恵子。
1.安全の非常識
x化学物質は少しでもあったら危険 ○どんな化学物質も大量なら毒・少量なら無毒
量と作用との関係がある。大量なら何でも毒。食塩でも数百グラム取れば死ぬ。そこから減らしていくと、無毒性量になる。それ以下は毒でないが、安全をみてもっと減らして、閾値になり、一日摂取許容量になる。それを安全をみてさらに減らして、規制値になる。規制値を超えたから直ぐに害があるものではない。違反があったとしても閾値を超えないようにするため、厳しい規制になっている。この程度の量では、作用がない。
x「複合汚染」の恐怖 ○大量に飲む薬には相互作用の可能性があるが、少量の添加物や農薬では相互作用はない
これも量と作用の関係の誤解である。有吉佐和子さんの小説「複合汚染」で有名になった言葉であるが、学術用語ではない。添加物程度のものは元々が人に作用がないレベルのもの。ゼロとゼロが加わってもゼロである。ところが薬はもともと人に作用があるような大量を飲んだりするものであるから、これが組み合わさると相互作用の可能性があるので要注意。
x天然・自然こそが安全 ○野菜や果物は元々多くの種類の発ガン性化学物質を含んでいる。
Bruce Ames – Wikipedia, the free encyclopediaエイムズという学者が調べた結果、全ての野菜・果物は天然の農薬を含む。その結果、農薬と比較すれば、99.99㌫が天然農薬で、0.01パーセントが残留農薬であることが分かった。植物は動けないので害虫から逃れるには毒を体に作って身を守る。それが天然農薬で、発ガン性科学物質も多くある。それと比べて、農薬は発ガン性のあるものは使えないし、分量もはるかに少ない。ただし、植物は複雑で、ガンを防ぐものも含むし、植物は食べたほうがよい。
x化学物質は蓄積する。 ○蓄積するような化学物質は食品添加物や農薬として使っていない。
そもそも、薬を我々が一日三回毎食後、などと飲む理由を考えてみよう。蓄積するなら一回飲めばそれで効くはずだ。われわれは体内に化学物質代謝酵素を持っており、直ぐに化学物質を分解してしまう。だから何回も飲まないといけなくなるのである。つまり、飲んだはしから分解されるので、蓄積するものではない。仮に蓄積するものなら、添加物に使えない。
x中国産輸入食品は国産食品より安全性が低い。 ○両者の安全性に差はない。
中国産輸入食品でまず話題になったのは、毒入り餃子事件であろう。これは残留農薬の問題でなく、農薬が犯罪に使われたものである。また餃子の問題ではなくて、袋に農薬がかけられたもの。犯罪で農薬が使われたのは日本でもある。しかし、世論が沸き立ち、他の中国産輸入食品も多数調べたので、残留農薬が検出される件数も多くなっただけで、比率では中国産が悪いというデータは無い。米国でも中国産を輸入して、かなり調べているが、日本産の食品のほうが少し成績が悪いというデータもある。多数を調べると必ずいくつかは悪いのも出るのである。中国産輸入食品は日本人が輸入するし、検査もしっかりしているから、国産と変わりが無い。あるところで、学校の給食では全てを国産に、とPTAが言い出して、オリーブオイルの国産が存在しないから輸入したいと了承を得るのに苦労したという話がある。そこで、土地の最高級料亭用の材料よりいい物を学校に入れるそうだ。こんなことより、本当のリスクは普通の食品での食中毒であり、喫煙・飲酒、にある。
2.非常識は本能の働き
・人間は直感的な判断(ヒューリスティック)をする
・それは知識と経験に基づくが、判断に「ひずみ」もある
・判断の傾向の一つ、男性的脳。カナダ・アルバータ大のハード博士 人差し指と薬指の長さを比べて、人差し指が短いと、胎児での男性ホルモンシャワーの強さがわかる。
・「聴かれて出る不安」、アンケートで無農薬野菜を望むかどうか聴かれ、知識を聴かれると思い、それを答えるから、実際の行動とは違ってくる。無農薬野菜はごくわずかしか作られていないのは、ユーザーがそれを重視しないから。
・判断で重視するのは順に、危険情報重視、利益情報重視、となる。安全情報無視、信頼する人に従う、という傾向がある。信頼されることが重要。
3.常識と非常識を近づける
・「安全を科学的に証明すれば消費者は安心する」と考えると間違う。
・事業者や行政に対する信頼がなければ安心できない。
・安心(感性)=安全(科学)+信頼(感性)
・正しい判断のためには、豊かな知識と経験が必要。
・山岸俊夫さんの「安心社会から信頼社会へ」で述べている。急激な社会変化があり、安心社会がなくなったが、まだ信頼社会になっていない。そのために、セコムも出来、消費社庁もできたが。

向殿政男 明治大学理工学部教授 
安全社会の実現のための企業活動。安全設計、死に方設計。企業の競争力は安全にあり、持続可能性、安全はコストではなく投資。未然防止と迅速対応が大事。安全x信頼=安心。

木村昌平 セコム取締役会長
インフラ化する安全ビジネス。社会にとって正しいことか、公正なことか、これが会社の判断基準。顧客満足度工場と社員満足度工場を目指す。安全・安心で質の高い社会を目指して、「きづな」作り。世の中の評価と違うところがある、十年間一度も作動しなくても、十年後にしっかり動くか。キッズデザイン協議会、ヒット商品も出ている。炊飯器で子供がやけど、蒸気が出ない炊飯器、ヒットしている。

野村裕 消費者庁消費者安全課長
消費者事故等に対する消費者長の取り組み。消費者事故情報の収集と開示、再発防止。「リスクの学習帳」

コーディネータ 白石真澄 関西大学政策創造学部教授

正しい理解、リスクコミュニケーション(あらゆるものにリスクあること、どこまで許容するか関係者間で合意する、これが目的)。しかし、いまだ成功していない。信頼関係が大事。某社の事故の開示と広告の姿勢で、かえって株価が上がった。経営の姿勢ーーー全部出すこと、不安を与えたから謝罪すること、事故時には一切隠さないこと、これが信頼につながる。
お風呂場の乾燥機の例。陶器メーカー、自社のものでない電気乾燥機だが、自社のお風呂場から火災を出さないために、全数調査。
油のエコナ。市場から消えている。元々はドイツの赤ちゃん用ミルクに含まれた成分が、発ガン性につながる可能性を調べようという話が日本に伝わって、騒がれ、あっという間だった。
コンニャクゼリーの判決で、ゼリーに通常の食品安全性を備えていると判断した、これはエライ。喉に詰めて4千人も亡くなる。もちが多い。もっと多くの助かった例があるはずで、それを調べれば防げるかもしれないのに、そのデータがない。また、おもちで赤ちゃんは亡くなっていない、これも調べれば。
メディアの役割が重要。

全体的感想 内容の一杯あったシンポジウムであった。この機会を与えてくれたのに感謝。中でもコーディネータの進め方の手際のよさには、まったく脱帽である。見事としかいいようがないものであった。事前の周到な準備がしのばれる。たぶん、一日二日のものではないだろう。
しかし、このような機会を、マスコミ上で多数の目に触れる形で継続して進めていただきたいものである。少しでも誤解が少なくなるように。

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