ネット社会における評判と信頼 山岸俊男2010.6.4

ネット社会における評判と信頼 山岸俊男 北大教授 国立情報学研究所オープンハウス2010 基調講演
(紹介 高須)
[ネット社会における評判と信頼 山岸俊男] 以下[]内にパワーポイント資料の文言の一部
[近頃、さまざまな場で日本は世界一の座を明け渡していますね。だけど、まだ世界一の座を保っているものがあります。
それは、

リスクをさけようとする傾向です。]
[「世界価値観調査」で尋ねられた、「自分は冒険やリスクを避ける人」のカテゴリーに自分が当てはまると思っている人のパーセンテージ
日本がトップの70数パーセント]
世界価値観調査 日本人がリスクを避けようとする傾向は世界一
[リスク回避傾向ほどではありませんが、日本人がかなり目立っているものがあります。それは、
一般的信頼の低さ
日本人は、他者一般を信頼する傾向が、世界の中でも極めて低い]
一般的信頼の低さも際だっている。いろんな大規模調査で裏付けされる。
[Pew Global Attitudes Survey
http://pewresearch.org/pubs/799/global-social-trust-crime-corruption
Wike&Holtzwart 2008
「世の中のほとんどの人たちは信頼できる」 という問いに同意か不同意か
で日本は同意43パーセント、不同意53パーセント、結構信頼感の少ない国、逆に中国は同意79、不同意19]
Where Trust is High, Crime and Corruption are Low – Pew Research Center
[データを見る限り、日本人の他者一般に対する信頼感はひくいですね。
だけど、こんな結果は口先だけじゃないでしょうか?
それでは、実際の行動をみてみましょう]
では実際の行動ではどうか。
[日米比較社会的ジレンマ実験
信頼尺度は実際の行動と一致
信頼を必要とする協力行動に、調査結果と同じ日米差
信頼の日米差は、口先だけの差ではない!]
日米での社会的ジレンマの実験結果からは、みんなのために協力する度合いはアメリカ人の方が高い。
日中台実験の結果からは、一般的信頼、信頼する程度、信頼に応える程度のすべてで、中>台>日 になった。
[他人が信頼できないというのは、必ずしもまわりの人たちが信頼に値しない人だということを意味しない。
日本人は、他人との関係でリスクをとろうとしない。
なぜ? 
対人関係におけるリスクが大きくなるようなかたちで社会を作ってきたから!?]
 今日の話はこれ。

[日本は高信頼社会だという”常識”と、日本人は一般的な信頼が低いという調査や実験の結果の矛盾は、どう説明できるのでしょう
この矛盾を理解し説明するためには、”信頼”と”安心”の違いを理解する必要がある
信頼 ≠ 安心]
信頼 と 安心 とはイコールではない。
[「信頼」の意味
信頼は、社会的な場面におけるリスクテイキング
⇒相手の行動によって自分の「身」が危険にさらされる状態で、相手がそのような行動をとらないだろうと期待すること。
信頼が報われる >信頼しない>信頼が裏切られる
傷つくことを恐れる人間は、他人を信頼しない。しかし、そうすると、信頼が報われたときに得られる利益が得られない。
もちろん、この場合の「利益」には、地位や財産や評判、面子、自尊心、友情、愛情など、自分にとって重要なすべての「自己利益」が含まれる]
信頼の定義 信頼は、社会的な場面におけるリスクテイキング
夫が浮気をした場合、もう浮気しないと夫は誓う、妻がそれを信頼して裏切られると思えば信頼しないほうがいい、信頼すればうまくいくかもしれない。
信頼が報われる > 信頼しない > 信頼が裏切られる
という利益の大きさの関係が問題で、傷つくことを恐れる人間は、他人を信頼しない。しかし、そうすると、信頼が報われたときの得られる利益が得られない。
[信頼は、相手の行動によって自分の「身」が危険にされされる状態で、相手がそのような行動をとらないだろうと期待すること。
この期待の理由によって、「信頼」の持つ意味が異なる!
安心と信頼
1 相手が「いい人」だと思うから(=相手の人間性)
相手が自分に好意を持っていると思うから(=相手との関係性)
 ⇒信頼
2 自分を裏切ると、相手自身が損をするから
 ⇒安心]
信頼は、相手の行動によって自分の「身」が危険にさらされる状態で、相手がそのような行動をとらないだろうと期待すること。 この期待の理由によって「信頼」の持つ意味が異なる。
信頼 相手が「いい人」だとおもうから(=相手の人間性)、相手が自分に好意を持っていると思うから(=相手との関係性)
安心 自分を裏切ると、相手自身が損をするから。

米の取引と生ゴムの取引  米はオープンマーケットで、生ゴムは代々続く継続した取引相手に閉じた取引。同じ地域で並存し、文化の違いではない。米は品質を見分けやすいがゴムは見分けにくい。
[安心を生み出す集団主義型の秩序原理
生ゴムの取引に伴う大きな不確実性を避けるため、固定した関係を通してのみ取引を行う。
⇒集団からの排除の脅しが、人々の行動をコントロール

⇒まわりの人たちから嫌われるリスクを大きくして、人々が身を慎むように行動する秩序の作り方

⇒まわりの人たちから嫌われるリスクが大きすぎて、独自性を発揮するためのリスクが取れない

⇒こうしたかたちでのコントロールの外の人間に対しては、信頼するリスクが大きすぎる

⇒他者一般に対する信頼が育たない]
ハリセンボンマシンのような、生ゴム取引のような、集団主義型の秩序原理では、集団からの排除の脅しが人々の行動をコントロールする。まわりの人から嫌われるリスクが大きく、人々が身を慎む。リスクをとれない。このため、他者一般に対する信頼が育たない。

[マグリブ商人連合と株仲間
情報の非対称性が生み出すだまし問題
⇒エージェント問題
⇒レモン市場問題 ]
閉鎖的な取引によって、情報非対称性にもとづく信頼問題(エージェント問題)を解決する。(幕府は何度も株仲間を禁止しようとしたが、取引が止まってしまい、失敗した。)
[マグリブ商人による解決
◆マグリブ商人だけをエイジェントとして雇う。
◆自分を裏切ったエイジェントについての評判を仲間内で広める。
◆仲間を裏切ったことのあるエイジェントは雇わない。
この結果、仲間を裏切ったエイジェントが将来期待できる利益が小さくなる。
閉ざされた集団の中での評判が、情報非対称性にもとづく信頼問題(エイジェント問題)を解決する。]
[閉ざされた集団の中での評判が、情報非対称性にもとずく信頼問題(エイジェント問題)を解決する。
⇒関係を外部に対して閉ざすことで、関係内部に安心を提供する、集団主義的秩序
⇒ 安心社会

ジェノバとの競争に敗れ、地中海貿易の覇権を失う]
 この集団主義的秩序による安心社会では機会費用を失ってしまう欠点がある。12世紀にマグリブ承認連合がジェノバとの競争に破れた(ジェノバは法治的秩序を形成した。法律により不正を禁止。法治のコストは集団主義よりも多くかかるが、機会費用が大きくなりすぎた)。
[安心社会に安住できないワケ
コストがかかりすぎる ⇒機会費用
マグレブがジェノワに敗れたわけ!?
これが、現代の日本社会が直面している問題
関係を通じた直接の相互コントロールができない
他の人たちに対するコントロールがきかなくなっているという心配⇒疑心暗鬼⇒安心していられる場にしがみつこうとする⇒人々がますますリスクを避けようとする⇒社会と経済活動の硬直化]

現代の日本で、就職が困難ー>正社員を若者がますます望む。安心していられる場にしがみつこうとする。ますますリスクを避けようとする。社会と経済活動の硬直化。悪循環。

[評判情報シェアリングの効果
レモン市場実験
評判の共有は、情報の非対称性により特徴づけられる市場の「レモン市場化」を、どの程度抑制可能かを調べる。
マグレブ商人の仲間(あるいは江戸時代の株仲間)で効果があった評判システムと、開かれたネット市場で効果がある評判システムとで、何が違うかを調べる。]

ネットオークション実験
ネガティブ評判は閉鎖的市場だけで有効。追い出せない場合にはネガティブ評判は無効。開かれた社会ではポジティブ評判によりブランド化するので、新規参入の呼び込みの効果が生じる。
[評判情報シェアリングの効果
レモン市場実験
・参加者は実験室のコンピュータ上に設定されたネットオークションにおいて、他の参加者との間で、実際に商品の売買を行う
・1グループあたり6~9人程度が参加。合計80人
・参加者は商品の生産(販売)・購入の両方の役割を行う
・購入した商品を実験者に転売することで、利益が得られる
・情報の非対称性が存在
・実験で稼いだ額を報酬とする]
[市場で取引される商品の平均品質]
[ネットオークション実験
・参加者はインターネット上に設定されたネットオークションにおいて、他の参加者との間で、実際に商品の売買を行う
・日本全国から800人程度の一般人が参加
・1グループあたり30~50人程度が参加。29グループ実施
・参加者は商品の生産(販売)・購入の両方の役割を行う
・購入した商品を実験者に転売することで、利益が得られる
・情報の非対称性が存在
・実験は、ほぼ2週間にわたり継続
・実験で稼いだ額を報酬とする
・NTTサービスインテグレーション基礎研究所の研究チーム(代表 吉開範章)と共同で実施]
[ID可変での、ミックス評判とネガティブ評判の比較
再参入可でも]
[実験のまとめ
1 情報の非対称性と匿名性のもとでは、レモン市場化が発生する。
2 匿名性の回避と評判情報の共有は、レモン市場化の抑制にある程度の効果がある。
3 アイデンティティー変更可能性は、評判情報の効果を弱める。
4 ネガティブな評価情報は。アイデンティティ変更による影響を大きく受ける。ポジティブ評価情報の効果は、アイデンティティ変更によって大きく影響されない。]
[”追い出し”と”呼び込み”
◆マグリビ商人の間でレモン市場問題が解決されたのは、商人の仲間(coalotion)が閉ざされていたため。
 ⇒Exclution:閉ざされた集団内部で評判が機能するのは、裏切り者を追放するために評判が用いられるから。
◆ネット市場では、「追い出し」がきかない。そのため、ネガティブな評判が効果を持たない。
 しかし、ポジティブな評判が効果をもつ。
 ⇒Inclution:開かれた社会で評判が機能するのは、ポテンシャルな相手を呼び込むから。開かれた社会では、ポテンシャルな相手は無限にいる。したがって、ポジティブな評判を獲得する誘因はきわまて大きい・
 ⇒ポジティブ評判としてのブランド]
[まとめ
● ネガティブ評判を使った集団主義的秩序は、閉ざされた関係内部で安心を生み出すが、そうした関係の外部の人々に対する不信を生み、リスクをとりながら安心できる関係の外にある機会を求める傾向を抑制する。
● 人々が安心社会に閉じこもれば閉じこもるほど、安心できる関係から外にでるリスクが大きくなる。そのため、ますます安心を求める傾向が強まるという悪循環が生まれる。
● この悪循環を断ち切るためには、最低限の安心を提供する必要がある。集団主義的ではない方法で安心を提供するためには、ポジティブな評判に目を向ける必要がある。ネガティブな評判を避けるのではなく、ポジティブな評判を求める態度を育成する必要がある。]

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